■マネーリテラシーとは具体的に何?
最近、マネーリテラシーが重要だといわれます。しかし具体的に何のことかというといろんな意見があるようです。「金融知識」と簡単に言ってしまう人もあれば、「お金に関する情報を判断する能力」というように説明する人もあります。リテラシーという言葉は、大辞林によれば「ある分野に関する知識やそれを活用する能力」となっており、どちらも正しいように見えます。筆者がマネーリテラシーを説明するときは「お金の知識じゃなくてお金の知恵のことです」といいます。「知識」と「知恵」という言葉は、ほとんど同じ意味で使われます。しかし、両者は大きく異なる概念です。知識と知恵の違いについて、私が好きな例えは「雨が降ってきたときどう対応を見せるか」というものです。知識がある人は「これをH2Oという物質であるとか、大気の循環によって雨が生じるとか、積乱雲が雨を呼んだといったことを説明できる」が、知恵がある人は「雨宿りをしなければ風邪を引くと判断し、軒先に移動する」と説明されていました。なかなかうまい例えです。私たちの体を守るのは知識だけではなく、知恵が必要なのです。
投資に関して言うならば「この投資信託は信託報酬が割安の設定であり、評価会社の評価は××、販売会社は○○。税制面では……」ということが知識で、「セールストークではなかなかうまいことを言っているが、冷静に考えれば将来のパフォーマンスは約束されていないし、あちらの商品と比べれば割高ですよね。自分の投資方針とは合わないので購入を見送ります」というような判断の部分が知恵の領域だと思います。
そして、後者こそがマネーリテラシーの肝要だと思うのです。
■知識は借りられても知恵は借りられない
お金に関する知識、特に商品情報や法制度に関する知識は常に最新化が図られることもあり、情報は常に陳腐化していきます。しかし、お金に関する知恵の部分はあまりさびることがありません。お金に関する知識、特に金融商品の詳細に関する部分については、金融機関にいつでも質問をすることができます。彼らはウソをついて商品販売することはできませんので、必ず本当の最新の知識を私たちに与えてくれます。しかし、その情報が有用であるか、触れられていない情報はないか判断するためには知恵が必要です。金銭教育においても、細かい商品知識はほどほどにして、「知恵」を学ぶ部分に意識を高めると効果があると思います。
そして知恵のほうが知識よりもあなたの投資を助けてくれることになるはずです。なぜなら、「知識は人から借りることができても、知恵は人から借りることができない」からです。
■知恵は個人を助けてくれる
お金の知恵は、人から借りることができない、と言いましたがまさに知恵は自分で自分を守るために備えておくべき部分です。よく知恵がある人を「賢い」といい、知識を豊富に有する人(頭がいい、などという)と区別します。知識がより多い方がいいのは当然のことですが、私たちは自分の仕事の専門家を目指す必要はあっても、投資の専門家を同時に兼ねることはなかなかできません。しかし、知識が豊富ではなくても、賢い人は適切な判断能力があるので、上手に世の中をわたっていくことができます。FPではないある人が私に「住宅ローンは借り手のほうが条件が厳しいのではないか」と質問をしてきました。彼曰く「貸し手の銀行側は返済が滞れば物件を取り上げて回収を図れるし、売り手の不動産会社はローン設定できれば売り上げは回収できてしまうというよい条件だが、個人はそうではない。個人は数十年の返済義務を負い続け、契約時の金利が有利かどうか(将来はどうなるか)よく分からないのに、『夢のマイホーム』『家族の幸せ』という甘いくすぐり文句に囲まれながら、年収の何倍にもなる投資判断を求められるではないか。」と。
私は、彼は知恵が働いているなと感じました。住宅購入に関する知識は不足していても、住宅ローンという取引の構造を見抜いていると思ったからです。自分の頭で自分の問題としてお金のことを考えることが知恵の第一歩です。彼がその後どうしたか話を聞いてはいませんが、きっと無理のない住宅ローン設定をしたのではないでしょうか。